熟年離婚はふつう妻から切り出されます。専業主婦というのは現在ではかなり減少していると思われますが、長年夫の給料で生活を支えてきたその専業主婦が夫の定年退職を機に、退職金を折半して離婚を切り出すことがよくありました。家族のために一生懸命働いてきた夫は、定年退職後は妻とゆっくり老後を楽しむつもりでいたのに、なぜ離婚なのかとその原因も理由もわからずただ当惑するばかりです。要するに、妻はただひたすら耐えながら家事をこなし育児をしてきたわけで、企業戦士として外で働くばかりだった夫は妻のその苦しみに気づくことはなかったということです。
新婚旅行で喧嘩して新婚旅行から帰ってすぐに離婚する成田離婚とは違って、長年も連れ添った夫婦が定年退職を機に離婚するというのは、どういうことなのでしょうか。また、離婚後の年金などはどのようになるのでしょうか。
熟年離婚とは
専業主婦の割合は減少しているとしても、熟年離婚自体は増加傾向にあります。もっとも熟年が何歳なのか明確な規定はないので、熟年離婚というのも何歳での離婚のことを言うのかはっきりしませんが、一応20年以上夫婦生活を続けてきた夫婦の離婚と考えておくことにしましょう。そんなに長く連れ添ったのに今さらどうして離婚なのかと考える人も多いでしょうが、離婚を切り出した相手はそれほど長い間じっと耐えてきたということなのです。その理由はいろいろではありますが、定年退職をきっかけにした熟年離婚が多いのは事実です。
年金いくらもらえる
年金受給年齢が引き上げられるとともに、年金制度の一本化という方向性のもとに、逆に年金は国民年金に相当する基礎年金部分が夫婦それぞれ別に支給され、以前は共済年金や厚生年金として一括して支給されていたものが、その基礎年金に上乗せされて支給されるようになっています。では、年金が支給される年齢になって離婚、つまり熟年離婚する場合にこの年金はどのように分割されるのでしょうか。基礎年金部分については個人に支給されるので分割対象にはなりませんが、厚生年金に相当する部分については合意分割と3号分割があります。
合意分割とは、その名前の通り配偶者と合意して分割するものです。夫の厚生年金をどのくらいの割合で分割して受け取るかということについて合意するということになりますが、厚生年金の対象になる夫の在職期間と夫婦であった期間との割合がその算定基準になります。夫の在職期間と夫婦期間とが同じである場合が50パーセントで、これが考えられる最高額です。3号分割は自動的に受け取れる年金ですが、これは3号という法律の条文を示す数字が示しているように、2008年4月に施行された法律に従った分割ですから、それ以後の厚生年金積立分にしか適用されません。3号分割の対象となる年金については、50パーセント受け取れることになっています。
手続き方法
厚生年金と共済年金は一元化されていますので、その年金分割については厚生年金の事務所や共済年金の窓口などに必要な書類を提出しないと、年金は分割されません。必要な書類としては国民年金手帳か基礎年金番号通知書、結婚と離婚の年月日が記載された戸籍謄本が必要です。3号分割だけならば自動的に半分に分割されますが、現時点ではそのケースは少ないでしょう。合意分割と3号分割の組み合わせになるでしょうから、その合意を示す書類が必要になります。話し合いだけで分割の割合が決定された場合にはそれを示す公正証書、家庭裁判所の調停や審判を受けて合意に到った場合には、家庭裁判所の調停調書や審判書が必要です。それから、認印でいいですから印鑑を忘れないようにしてください。また窓口に年金分割の申請に来た人が本人かどうかを確認するために、運転免許証やパスポートのような写真の付いた身分証明書が必要です。
離婚したほうが得なの?
退職金を半分もらい、年金も半分もらうことができるなら、夫と二人で生活するより自分一人のほうが楽だからというだけの理由ならば、離婚するのは必ずしも得策ではありません。民法第752条では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」と規定されていますから、熟年を過ぎて老年に入っていったときにそういう関係でいられるならば、離婚はしないに越したことはありません。これから暇になる夫に少しは家事を手伝ってもらったりするのもいいでしょう。
ただ、民法第770条1項に挙げられている離婚原因が明確にあるならば、離婚の訴えを起こすことができます。離婚原因の一番目は不貞行為です。これも、夫と相手から慰謝料をもらったうえでもう二度としないという約束を取り付けて離婚は回避することも可能です。もっとも最近は、夫ではなく妻の不貞も少なくないですから、それはまた別に考える必要があります。
民法の同じ条文で挙げられている離婚原因としては、悪意の遺棄というものがあります。これは夫が家庭を一切顧みないことです。次に上がっているのは3年以上生死がわからないということで、これらは夫婦関係の破綻を示しています。次に挙げられているのは強度の精神病に罹り回復の見込みがないことです。法律の規定の定番ですが、最後に「その他重大な事由」と民法の条文には書かれています。最近では、DVやモラハラなどの身体的精神的な暴力が離婚の原因の上位になっていますが、民法が制定された頃にはそういうことがあまり問題にならなかったのでしょう。これは「その他重大な事由」の具体例です。
民法第770条で規定されている離婚原因があるのならば、熟年離婚の年齢まで我慢していないでもっと早く離婚することがあったでしょうから、熟年まで連れ添った夫婦は、ここでもう一度考え直してみるのがいいでしょう。
まとめ
熟年離婚では、年金の分割が離婚後の生活にとって大事な要素になります。ここまで我慢してきたのだから最後まで我慢するのがいいか、ここまで我慢してきたのだからはあとは好きに生きていくのがいいか、判断に迷うところです。不貞行為や身体的精神的暴力の場合には、熟年になるまでに離婚していたかもしれません。熟年離婚の重みをここで考え直してみてください。